麻有子達が 別荘に来る前に、母は 別荘の掃除をする。

窓を開けて 空気を入れ替え、床や棚の上を丁寧に拭く。

美奈子も 時間がある時は手伝う。


そういうことも、美奈子は 嫌だと思わない。

麻有子の家族が 快適に過ごすために。

何も見返りを 求めずに。
 


でも 智之の御両親は、いつも 美奈子達に 感謝してくれる。

別荘に来ると必ず、美奈子達も一緒に 食事に連れて行ってくれた。
 


「絵里ちゃん、学校は楽しい?」

ホテルで 豪華な夕食を食べながら、美奈子が聞く。
 
「とっても楽しいよ。絵里加ね、お友達が たくさんできたの。」

絵里加は明るく答える。


ハワイ旅行から 半年足らずなのに、絵里加は すっかり小学生らしくなっていた。
 

「学校まで、どうやって行くの?」

美奈子の言葉に、絵里加は 樹と翔を見て、
 
「路線バスで行くの。朝は、タッ君達と一緒だよ。ねっ。」と言う。
 
「姫、チビのくせに 頑張り屋だから。バスが混んでいても 我慢しているよ。」


樹は お兄ちゃんらしく 優しく言う。

まだ5年生の樹は、上手にナイフとフォークを使って、大人と同じ食事を食べている。


「絵里加、チビじゃないよ。」

と口を尖らせる絵里加。


廣澤家の子供達は、みんな素直で可愛い。

高級な場所にも 慣れているから、ホテルのレストランでも お行儀よく食事ができる。
 


絵里加達は、美奈子が 保育園で預かっている子供達とは 違う世界で生活している。

美奈子と麻有子のように。

だから比べても仕方ない と美奈子は思っていた。
 


いつか 美奈子が結婚して 子供を産んでも、絵里加のようには 育てられない。

住む世界が違うから。


でも、どっちが幸せかはわからない。


美奈子は 今の生活で十分、幸せだから。