リーンゴーン、リーンゴーン……――。


 拍手と共に花びらが舞う。おめでとう、という声を次々に掛けられて笑顔で受け取る。

 自分の姿を思い出す。綺麗なAラインに長いトレーンの着いたウェディングドレス。髪は編み込んで、ベールの下には生花の花輪を飾っている。どう考えても、幸せな花嫁の姿そのものだ。溜め息吐きたくなる気持ちを抑えて、笑顔を浮かべる。隣で腕を小突かれる。分かってますよ、と組んでいる腕に体重をかけてやる。

 ふっ、と小さく笑う声が聞こえた。


「今からでも、辞めてもいいよ?」
「いえ、大丈夫です。女に二言はありません。」
「なんか違う気がするなぁ。」


 傍から見れば、仲睦まじく話しているようにしか見えないだろう。内容はそんな甘いものではないけれど。

 やっぱり悪魔に魂を売り渡したのは、失敗した気がしてならない。今更、無かったことには出来ないけれど。いや、感謝はしているんだ、感謝は。でも、他に選択肢がなかったのかなぁと思わなくもない。ないから、これでいいんだけど。

 どうしてこうなったんだろうと、思いを馳せた。


 * * *


「はぁっ!?私言ったよね、不用意に保証人になるなって、あれほど言ったよね?」
「うっ、だってまさか義伯母さんが居なくなると思ってなくて……。」
「だーかーらー、母さんの親族は信用するなって言ったでしょ!」


 そんなこと出来ないよぉ、って泣きごとを言う父親を横目に頭の中でそろばんを弾く。とりあえず、金利が悪くてもちゃんとしたところにお金借り直して今の借金は返して。私の給料からすると月5万の返済が限界か。5万も失うのは痛いけど。

 そこまで考えて、今回も父の尻拭いをするつもりな自分に溜め息を吐いた。


「ねぇ、父さん。なんで母さんやその親戚のこと、信じるの?」
「だって、母さんだもの。」
「理由になってない、男作って出て行った女のどこを信用できるのよ……。」
「理由なんてないよ、確かに裏切られたかもしれないけど、僕が愛した女だもの。」


 実の父親でなければ、けっと毒づきたいくらいだ。愛がなんだ、それで飯が食えるかってんだ。でも、父さんの面倒を見ている私も、ある意味同じ穴の狢なのかもしれない。自嘲的に笑うと、現実を見ることにした。


「で、いくらなのよ?」
「紗衣ちゃん、怒らない……?」
「もう怒ってるわよ、早く借用書出して。」


 嫌がっていた父から奪った借用書のコピーを見て、眩暈がした。目を閉じて、再び開けても数字は変わらない。マジか、という声が漏れた。


――金額、10,000,000円也。