そっと絡まった蔦に指を絡め、桜を身体に受ける。きっと、きっと来る。あの子はここに来る。ふっと笑みが零れた。
カンカンと足音がして桜が一気に散る。
僕はまた笑って物陰に隠れた。

日光。陽の光なんて何時ぶりに浴びたんだろ。
朝。朝に起きたのは何時ぶりだろ。
桜。…桜なんて最後に見たのはいつ?
朝と雨の間の香りに桜は良く映える。
クスっと思わず笑ってしまった。数時間後には
私はこの世に居ないというのに。なぜ今更感情が蘇るのか。…分からない。
きっとわたしが死んで私の遺書を読んだ人にしか分からない。なら考えるのをやめよう。
黄金の空を見上げて、透き通る桜に手を伸ばす。
そして私は窓を閉めた。

最高に綺麗なカッコして
家飛び出して、途中で蕾のままの桜の枝拾ってポニーテールに刺してみたりした。
久しぶりに楽しくてまるで幼い子供のようにはしゃぐ。
そして蔦の絡まる家の前で少し笑った。
蔦を破り足を踏み入れる。トントンと階段を上がる音。
最後の一段を登り切った。
崩れかけたベランダの端に少しずつ歩み寄って目をつぶった
「待って」
不意に手首を掴まれて後ろに引き戻される。受け身を取れずに尻餅をついた。
見上げるとニコッと笑う男子がいた。

「......誰?」
尻餅をついた姿勢のまま問いかける。
男の子はニコニコしたままこっちを見てるばかり。
「誰だって聞いてんじゃん」
「夏野涼音」
急に名前を呼ばれて息が止まった。なんで、私の名前...?
「僕は海斗。桜林海斗」
君、死のうとしたんでしょ。
桜吹雪が吹いた。
「だってこんな廃墟に一人でしかも夜じゃない時間に来るなんて死のうとしてるでしょ。それに__」
そこまで言いかけて海斗さんは言うのをやめてそっぽ向いてはにかんだ。
「明日も来てよ!」
私に向き直って彼はニコッとまた笑った。