「ねえ恭子ちゃん、どうして タッ君だったの?」

夕食を食べながら ふいに絵里加に聞かれて 恭子は意味がわからずに
 
「どうして?」と聞き返す。
 
「うん。カッ君とか 壮君もいたじゃない。タッ君よりも 年が近いし。なのに どうして タッ君を選んだのかな、って思って。」

絵里加の質問に 恭子が 何て答えるか 樹も興味があった。


「樹さんの笑顔 すごく優しかったから。それに 翔先輩とか壮君は 樹さんとは 空気感が違うの。もっと繊細っていうか。」

そこで恭子は 言葉を切って 樹を見た。
 
「悪かったね、俺は 大雑把で。」と樹は 恭子の頭を抱える。

恭子は ケラケラ笑って続ける。
 

「翔先輩とか 壮君みたいな人だと 私 気を使って疲れちゃうと思う。今みたいに 伸び伸びと 自然でいられなくて。樹さんといると 家族といるみたいに 安心していられるの。」

恭子の答えは 最高の 褒め言葉だった。
 

「絵里加も同じ。絵里加も ケンケンといると 家族といるみたいに 安心する。」

絵里加は、驚いた顔をする。
 

「俺も、だよ。恭子といると 全然 無理しなくていいんだ。自然に寛げて いつも笑っていられるんだ。すごく落ち着くよ。」

樹は 優しい笑顔で 恭子を見つめる。

恭子は 嬉しそうな笑顔を 返してくれる。
 


「俺は、ちょっと違うな。」

健吾は、みんなを見て言う。
 
「どんな風に違うの?」

絵里加は 不安そうな目で 健吾を見る。
 
「絵里加は ずっと憧れで 特別な女の子だったから。どんなに 頑張ってでも 無理してでも 絵里加に相応しくなろうと思っていたの。でも実際 一緒にいると 絵里加は 俺を癒してくれて 全然 無理しなくて 自然でいられるんだ。」

健吾の答えに、樹は プッと吹き出す。
 
「なんだ、同じじゃない。」と言って。
 

「まあ、結論は 同じなんだけど。だから凄いんだよ。」

健吾は、苦笑して続ける。
 
「無理を覚悟で 付き合ったのに 全然 無理しなくて良いんだよ。すごいでしょう。」

健吾の 言いたいことを、樹は 何となく理解できる気がした。
 

「だから、ケンケンは どんどん カッコよくなってきたのね。」

絵里加の言葉に みんなが 顔を見合わせて 笑ってしまう。
 

「カッコよく見えるのは 姫が ケンケンを好きだからでしょう。」

と樹が言うと、
 
「私も。樹さん 最近 カッコよくなったって思うよ。」

と恭子が答える。

素直な恭子の言葉が、樹はとても嬉しかった。
 

「ありがとう、恭子。」と言って、恭子の頭を撫でる樹。

恭子は 嬉しそうに、樹を 見つめてくれる。
 

「こんなに タッ君を メロメロにして。でも恭子ちゃんも 同じくらい タッ君にメロメロでしょう。」

絵里加が 笑顔で言うと 恭子は 恥ずかしそうに頷く。
 

「樹さんを 知らなかった頃には 戻れないわ。」

甘く頬を染める恭子。

樹は愛おし気に見つめて、もう一度

「ありがとう。」と言う。