「今日は、一緒に夕食を 食べようか。少し遅くなるよ。」

いつもは 夕食までに 恭子を送る樹。

ほんの少しなら、狼を起こしてもいいだろう。


「ヤッター。私、お母さんに LINEするね。今日は、ご飯いらないよって。」

と嬉しそうに 目を輝かせる。

恭子は、こんなに 待っているから。

樹の愛を、受止めたくて。
 


春の夕暮れは まだ明るくて。

夕食には少し早い時間。

ティファニーから ゆっくり歩いて パークハイアットホテルに向かう。

樹は 途中で レストランに 予約の電話を入れた。

 

「まだ時間があるね。お腹空くまで 散歩しようか。」

樹は 中央公園に入って行く。

手を繋いで歩く恭子は ニコニコと頷く。
 
「ここ、イルミネーションの公園だ。」

去年のクリスマスも、ここを歩いた。
 
「あの時は、寒かったね。」樹が言うと、
 
「でも、寒いと くっつけるから いいよね。」

と、また可愛い事を言う恭子。
 

「寒くなくても、くっつけるよ。」

樹は 歩きながら 恭子を抱き寄せる。

樹を見上げて ニコッと笑う恭子も 樹の腰に腕を回して しがみ付いてくる。
 


「恭子、可愛い。もう離したくない。」

樹は立ち止まって 恭子を胸に抱きしめた。

まだ空は薄明るいのに。

人も歩いているのに。
 

「私も。ずっとこうしていたい。」

樹の胸に 顔を付けた恭子が そっと囁く。


恭子の頭に顔を寄せて しばらくじっと抱き締めて。

そっと恭子を離して 歩きだした樹は 人通りの少ない 木陰に入っていく。