みんなに誘われて 樹は 夕食をご馳走になって帰る。
 
「絵里加達には、そっと 教えてくれてもいいのに。」

絵里加は、恨めしそうに樹を見る。
 
「ごめん、ごめん。でも本当に 高校卒業まで 待つつもりだったから。」樹が言うと、
 
「恭子 やたら うちに来ると思ったよ。お兄さんを 待っていたんだな。」健吾も言う。
 
「違うわよ。絵里ちゃんがいるから 行ったのよ。でも、お兄さんに 会えると嬉しかったけどね。」

恭子の素直な言葉は、樹の心を温かく包む。
 


「恭子は これから 家事を練習しないといけないよ。勉強も ちゃんとして、樹君の奥さんとして 恥ずかしくないように ならないと。」

お父さんは恭子に言う。
 

「樹さんのご両親は もうご存知なの?」

お母さんに聞かれて、

「まだです。恭子ちゃんのご家族に 承諾頂いてからでないと。今夜、話します。」

樹は正直に言う。

父と母の、驚く顔が 目に浮ぶ。
 


「タッ君ママ、驚くわよ。絵里加達も 一緒に行ってあげようか。」

絵里加に言われて、
 
「大丈夫だよ。みんな喜ぶから。」

と樹は苦笑する。
 


「明日の夕食は お兄さん達の話しで 盛り上がるね。」

健吾は まだ20才前に この気持ちを経験したのかと 樹は感心する。
 
「ケンケンは 先輩だから。色々、教えて下さい。」

頭を下げる樹を、みんなが笑う。
 

「そうか。ケンケン、タッ君の お兄さんになるのよ。」

急に絵里加が言う。樹もはっとして、
 
「もう ケンケンなんて 呼べないね。お兄さんて呼ばないと。」と言う。
 
「やめてよ。変だよ。今のままで お願いします。」

健吾は気まずそうに笑う。
 

「会社では、樹君が 一歩先を行っているからね。樹君、健吾のことも 宜しく頼むよ。」

お父さんの 謙虚な言葉に 樹は頷く。
 
「こちらこそ。ケンケンの力を 借りるかもしれないし。」


本当に、良い縁だから。

みんなが 安心して 二人を祝福できるから。


樹が恭子を見ると 甘い幸せに 頬を染めて 樹を見つめ返してくれる。


『ありがとう。恭子。必ず幸せにするからね。ずっと側にいてね。』

声に出せない言葉を、目で伝える。
 


「でも 絵里加 すごく嬉しいわ。タッ君も恭子ちゃんも 絵里加の大切な人だから。二人が一緒なら ママとタッ君ママみたいに ずっと仲良くできるから。」

絵里加の言葉に 健吾は大きく頷き 恭子は嬉しそうな笑顔になる。
 
「私 絵里ちゃんを 目指しているから。これからも、色々教えて下さい。」

恭子は 明るく言って、絵里加に 頭を下げる。
 
「そんな。絵里加もまだ 修行の身だから。」

と手を振って笑う。


絵里加は、相変らず 可愛くてキラキラしている。

そんな絵里加を 穏やかに見ることができるのは 恭子がいるから。


絵里加のように キラキラしていないけれど 温かな光で 包んでくれるから。
 


「恭子ちゃんが 大人になるまで ゆっくり 歩いていきたいと思っています。二人で。」

樹の言葉に お父さんとお母さんは 安心した顔で頷き合っていた。