秋は、悩ましい思いとの 戦いだった。

週末に 健吾の家族と 食事をする度に 樹は 恭子に 心を動かされてしまう。


壮馬の 推薦入学が 確定した時、
 
「恭子ちゃんは、何学部が希望なの?」と樹が聞く。
 
「私も、絵里ちゃんと同じ、経済学部が希望なんだけど。ちょっと足りないんです。だから商学部にしようかなと思って。」

恭子は 素直に答える。樹は笑顔で、
 
「あと一年あるんだから。頑張れば 大丈夫じゃない。」と言う。
 
「頑張れるかな。私、勉強嫌いだから。」

樹は笑ってしまう。
 

「絵里加は、お友達で決めたの。仲の良い子が 経済学部にするって言うから。」

みんな、学部なんて いい加減に決めている。
 
「俺は、絵里加が経済学部って 噂を聞いたから。」健吾も言う。
 

「そんな理由なの?悩んで損した。」

恭子が言い、みんなが笑う。
 

「俺は、ちゃんと将来考えて、理工学部にしたんだよ。」

今日 主役の壮馬は 誇らし気に言う。


「壮馬、頼むよ。マジで 期待しているからね。」

樹が言うと、壮馬は 得意気に頷く。
 

「俺だって、ちゃんと将来考えて、医学部にしたよ。」

翔も 壮馬に頷きながら言う。
 

「カッ君とか壮君は、成績が良いから。」

絵里加の言葉に、樹と健吾も頷く。
 
「なんだよ、長男長女は。」

智くんが 呆れた声を出すと、
 

「私、末っ子なんだけどなあ。」

と恭子は言う。

樹は、その素直さに 惹かれていく自分を 感じていた。


心地よく笑いながら。