「俺、早く 一人前になりたくて。」

健吾は、真っ直ぐな目で言う。

絵里加と結婚するために。

樹を信用できると判断して。
 


「ケンケン、いつ頃から姫のこと好きだったの?」

樹は健吾に聞く。
 
「異性として意識したのは、中学生かな。でも出会ったときから、ずっと好きでした。」

健吾は、少し照れながら正直に言う。
 

「姫、モテたでしょう?焦らなかった?」

健吾の気持ちを知れば 辛くなるとわかっていても 樹は知りたかった。
 
「中学生の時は すごかったな。よく告白されていました。俺、一度だけ見ちゃったんですよね。告白されているところを。」

健吾は少し躊躇する。

樹の促す瞳に頷いて続ける。
 

「絵里加、辛そうに “誰とも付き合う気はない” って言っていました。食い下がる男子に 屈しないで。最後まで 断っていて。何度も “ごめんなさい” って言いながら。」

健吾は 当時を思い出したのか 険しい目になる。
 

「無神経ですよね。絵里加 望んでいないのに。すごく負担だったと思う。告白する奴の自己満足に付き合わされて。」
 
「それでケンケンは、ずっと待っていたわけだ。」

健吾に感心して、樹は言う。
 

「焦ったし、揺れたし、辛かったですよ。高校は別々だから、会えないし。それに いくら待っていても 絵里加が 振り向いてくれる確信はないし。」

健吾もずっと、樹と同じ思いをしていた。


でも樹に絵里加が振り向くことは、絶対にない。
 

「ケンケンで良かったよ。姫は人を見る目があるね。大事な妹分だからさ、よろしく頼むよ。」

樹は言ってしまう。健吾の人柄に安心して。

絵里加を思う気持ちが、浮ついたものでないと わかったから。
 


「ありがとうございます。俺、絶対に 絵里加を幸せにしたいから。頑張ります。」

健吾の熱い瞳に、樹は微笑んでしまう。



『わかったよ、任せる。俺の代わりは君しかいないよ』

笑顔で健吾の肩を叩く。



心は大雨に濡れていたけれど。