「だから 悲しまないでね。寂しいけれど 悲しいことじゃないからね。だって お祖父ちゃんは みんなの中にいるんだもの。」

お祖母様は、お茶を一口飲んで続ける。
 
「紀之も智之も。樹も翔も、絵里ちゃんも壮馬も。みんな お祖父ちゃんを 受け継いでいるんだもの。これからだって、ケンケンと絵里ちゃんや 樹と恭子ちゃんが 新しい命を授かったら そこには お祖父ちゃんが続いていくんだよ。」

静かに、でもしっかりと 話すお祖母様。

その潔さは、みんなの心に響く。
 

「お祖父ちゃんの姿は見えなくても おじいちゃんは いつでもみんなの中にいるからね。もう泣かないで。悲しまないでね。」
 

「やめて。お母様。わかったから。もう言わないで。」

母が 泣きながら お祖母様を抱きしめる。

一番辛いのは お祖母様だから。

誰よりも 寂しいはずなのに。

とても 仲の良い夫婦だったから。

喪失感に 打ちのめされているはずなのに。


それでも家族を思いやる。
 

「ありがとう、沙織ちゃん。」

そう言って 母の背中を優しく叩くお祖母様。

みんなが 抑制を外して 思い切り泣いてしまう。


父も智くんも。樹達も。
 

信じられないくらい神聖で 厳かな時間だった。

ただ みんなの すすり泣きだけが 響くリビング。

心を解放して 自分の感情に 正直になって。


いつかお祖父様が 言っていた “涙は心を洗う” ということ。

それは本当だった。

思い切り泣いた後 みんなの心は 少し軽くなっていたから。