「なんでも、ない……よ」


ほんとは、なんでもなくないよ。


スッと悝世から離れて、自分の歯ブラシを手に取って、ちょっとやけくそで歯みがき。


そこから、いつもと同じで朝ごはんを食べて、制服に着替えをすませて。



2人で部屋を出る前。


玄関の扉に手をかけたら、カバンを後ろからグイッと引っ張られて動作を止めた。


「な、なに?」


引っ張ったのはもちろん悝世。


「なんか依茉ちゃん機嫌悪い?」


ひょこっと顔を覗き込んで、頬にむにむに触れてくる。



「べ、別に悪くないもん……」


「えー、ぜったい機嫌悪い」


誰のせいだと思ってるの。

だってもとをたどれば悝世が悪い━━━━って、これじゃ理由になってない。


だって、わたしが不機嫌になってるのは悝世が全然触れてくれないから。



なんかわたしばっかりが求めてるみたいじゃん……!