開幕前、観客席では やっぱり母が緊張していた。
 
「ああ。どうしよう。足が震えてきた。」
 
「ママは、毎回言っているね。」と、父が笑う。


絵里加の両親の隣には、健吾の両親が座っている。

S席正面の、関係者だけに売られるシート。


健吾のお母様は、穏やかに笑い
 
「自分が出るより、緊張しますよね。」と言ってくれる。

母は笑顔で、ため息をつくだけで精一杯だった。
 

開演のブザーと共に幕が開き 華やかな舞台は始まる。


プロローグ、オーロラ姫登場、リラの精の舞。


そして、絵里加が躍る ガーランドの舞。

絵里加は前列の真ん中、最高のポジションを与えられていた。
 

「絵里加です。前の列の、3番目が。」

母はそっと、健吾のお母様に教える。

父の隣に座っている健吾は、絵里加に気付いていた。
 

「綺麗。絵里加、すごいオーラが。」

美しいワルツに乗って踊る絵里加。

本当に絵里加の舞台度胸には驚く。


みんなが息を詰めて見守る中、余裕さえ感じられる笑顔で踊りきる。

大きな拍手で 舞台から下がった時 絵里加の両親は ほっとして目を合わせた。