その夜、父の帰りを待ちながら 母は絵里加と向かい合って話す。
 
「絵里ちゃんは、廣澤の家に生まれて育ったから、今の生活を特別に思っていないでしょう。お友達も、みんな同じように裕福で。それが普通だものね。」

母は静かに言う。
 
「絵里加、自分の家が特別って思ったことはないかな。」

絵里加は素直に答える。

「そうよね。でも 絵里ちゃん うちは特別なのよ。」

母の言葉に 絵里加は驚いた顔をする。
 

「幼稚舎に通うようなおうちは みんな特別なの。普通の家では なかなか幼稚舎に通わせることは、難しいの。」
 

「どうして。幼稚舎は月謝が高いから?」

絵里加は、不思議そうに聞く。
 
「もちろん、月謝も高いわ。それに難しいから 入学するために みんな たくさんの教室にも通うでしょう。それだけの経済力がないと 幼稚舎に合格することは難しいの。絵里ちゃん 覚えているかな?造形教室や体操教室のこと。」

母の言葉に絵里加は頷く。幼稚園の後 毎日何かの教室に通っていた。
 

「みんな、選ばれたおうちの子供達なの。努力だけでは、手に入らないような。」

母は言葉を切って、お茶を一口飲む。

絵里加は 母が何を話したいのか わからずに黙って聞き入る。