ランチタイムは 今までと同じように 陽子達と過ごす絵里加。

健吾も同じように、裕介達と食事をしている。
 

「だけど、どうしてケンケンだったの?」

食後のコーヒーを飲みながら、ひとみに聞かれる。

亜弥と陽子も、身を乗り出す。
 

「私も気になる。絵里加、ケンケンのこと好きだったの?」
 
「ううん。今までは、ただの同級生だと思っていたよ。でも、この前電車で会った時、ケンケンがすごく大人っぽくて。ちょっとドキドキしちゃったの。」

絵里加は正直に話す。
 
「それだけのことで、好きになる?」陽子は驚いた声を出す。
 
「ケンケンも大人になったよね、で終わらない?」ひとみも言う。
 
「うーん。タイミングなのかな。」絵里加は言い淀む。
 

「ケンケンが、絵里加を見ると 何か胸がキューっとして。今まで、そういうことなかったから。」絵里加は続けた。
 

「ケンケンは、目で訴えていたんだ。なかなかやるね。」亜弥が笑う。
 
「ケンケンは、絵里加のこと ずっと好きだったんでしょう。その気持ちが、絵里加の心を動かしたってことかな。」陽子に言われ、
 
「あまりグイグイこないから。安心できたの。」絵里加は、そっと言う。
 

「絵里加、グイグイくる人 苦手だよね。もしかして 絵里加のそういう事 ケンケンは、わかっていたのかな。」亜弥が言う。
 
「だとしたらケンケン、相当 絵里加のこと 見守り続けていたことになるね。」


ひとみに言われて、昨日の父の言葉を思い出す。
 
「絵里加、甘えん坊だから。ケンケン、頼りになるの。絵里加を守ってくれるし。」

話しているうちに どんどん健吾の愛を感じて 絵里加は胸が熱くなる。
 

「絵里加に好かれたら、誰でも守るって。」亜弥は、呆れたように言う。
 

「ううん。今まで、絵里加に告白してくれた人とか みんな自分のことばっかりで。絵里加の気持ち、全然 考えてくれなかったから。」

健吾は、いつも絵里加のペースを考慮して 無理強いはしなかった。


「確かに、そうかも。みんな絵里加を好きな自分に酔って。告白する自分に酔っているだけかも。」

ひとみが言うと、他の二人も頷く。
 

「ケンケン、本気だね。それも相当。絵里加、良かったよ。ケンケンの気持ちに気付けて。もしかして ケンケン以上に 絵里加を思ってくれる人 いないかもよ。」

陽子の言葉に絵里加は、涙が溢れてしまう。
 

「やだ、絵里加。泣かないで。私達がいじめたみたいじゃない。」亜弥に言われて、
 
「ごめんね。」と涙を拭う。
 

「最近 絵里加 泣き虫で。ちょっとのことで、涙が出るの。悲しくないのに。」

まだ涙を溜めたまま、絵里加は言う。
 

「可愛いね。恋に戸惑う中学生みたい。」

ひとみは、絵里加にハンカチを差し出す。
 
「だって、こんな気持ち初めてだから。どうしていいか、わからないんだもの。」

軽くひとみを睨んで、絵里加は言う。
 
「ケンケンに慰めてもらいなさい。」

陽子も笑って頷く。
 


「でも、私もわからないかも。恋したら、絵里加みたいになっちゃうかも。」

亜弥の言葉に、他の二人は はっとして見つめ合う。
 
「確かに。私も早く恋がしたいよ。」ひとみは笑う。

“私も” と陽子と亜弥が続けた。