「ただいま。」玄関を開けて、絵里加が声をかける。

中から、父と母が出てきた。
 
「こんにちは。間宮です。ご無沙汰しています。」

健吾は、両親を見て挨拶をする。
 


「さあ、どうぞ。上がって。」

父は笑顔で、健吾を招き入れる。


リビングのソファに、両親と向き合って腰掛ける。
 

「ケンケン、リレーの選手だったよね。」

父が 突飛な話題を振り 健吾と絵里加は はっとして顔を見合わせる。
 
「そうだった。パパ、よく覚えていたね。」

絵里加の驚いた顔に、父と母が微笑む。
 

「6年生の時。ケンケン、アンカーで。3人抜きしてK組が優勝したじゃない。パパ、応援したんだよ。」父は優しく言う。
 
「わあ。懐かしい。」
 
「ありがとうございます。」絵里加と健吾の声が重なる。
 

「ケンケンのこと、根性のある良い子だなって思ったからね。」

絵里加は、そっと肩をすくめる。


「でも、大きくなったわ。7年も前ね。」

母は、健吾の成長に驚いていた。
 
「はい。今は、絵里加さんと同じ経済学部に通っています。」

健吾に “絵里加さん” と呼ばれ、絵里加はクスっと笑う。
 

「ケンケン、絵里加でいいよ。何か変だから。」

絵里加の言葉に、父と母も笑って頷く。
 

「そう。それに、緊張しなくていいよ。絵里加と付き合っているんだって?」

父が先に話しを振ってくれる。
 
「僕、ずっと絵里加を見てきました。絵里加が 家族から大切にされていることも 知っています。僕も 同じくらい絵里加を大切に思っています。お付き合いしても いいでしょうか。」

健吾は一気に言う。
 

「ありがとう。今日 うちに来て 俺達に会ってくれただけでも ケンケンが絵里加を大切に思っていることが、わかるよ。」

父の言葉に、健吾は静かに息を吐く。
 

「絵里加、わがままだから。よろしく頼むね。」

父が言い、絵里加は健吾を見る。健吾はほっとした顔で、
 

「ありがとうございます。大切にします。」と言った。


父と母は、満足そうに微笑んでいる。

寂しそうと言うよりも、懐かしそうな目をして。