今日のランチも、健吾は支払う。
絵里加は丁寧にお礼を言う。
「二人とも学生だから。次からは 絵里加も出すね。」絵里加が言うと、
「大丈夫。一応、俺もセレブだから。」と健吾は笑う。
「知っているけど。じゃあ、次は絵里加がお弁当作るから。ピクニックに行こうよ。」
健吾に肩を抱かれて、代々木公園を歩きながら絵里加が言う。
健吾は立ち止まって、絵里加を正面から抱きしめる。
「ありがとう。絵里加、優しいね。」
絵里加も、健吾の背中に腕を回す。
胸に顔を付けてじっと、抱きしめられる。
健吾は絵里加の髪に、顔を寄せる。
込み上げる愛おしさを 抑えるように。
絵里加は、胸の奥がキュンとして健吾から離れられない。
次の一歩へ踏み出したいと思ってしまう。
でも健吾は、焦らない。
優しくゆっくり絵里加を離すと、また歩きだす。
そっと絵里加の肩を抱いて。
甘い不満で 健吾を見上げると 健吾は切ない笑顔で 絵里加の頭を 抱き寄せる。
「絵里加。」健吾は、呟くように呼ぶ。
「なあに。」絵里加もそっと答える。
「好きだよ。」肩に付けた耳に、健吾の声が振動して響く。
「絵里加も。好き。」
好きと言うだけで こんなに切なくて 泣きそうになるなんて。
恋を知らない頃は、わからなかった思い。



