いつも通り、母を手伝い 食卓を整える。


いつもなら 出かけた話しをする絵里加なのに。

やっぱり無口になってしまう。


母は、きっと気付いている。

だから絵里加に、何も聞かない。

優しく見守っていてくれる。


幸せなときめきと 健吾の胸のぬくもりが 家族との距離を広げてしまう。
 


「もうすぐパパ、帰ってくるからね。」

母の言葉は、絵里加に “心の準備は大丈夫” と聞いているようで。
 

「うん。絵里加の髪、潮風でボサボサでしょう。」母を見て言う。
 
「早めにお風呂、入りなさいよ。さっぱりするから。」

母は、共犯者の目で絵里加に微笑む。

部屋に逃げる口実を、作ってくれる。
 

「ありがとう。全身、砂っぽいの。」

絵里加は笑顔で、母に便乗する。

優しく頷く母に、抱き付いて すべてを話しい衝動を抑える。



『ママもパパに恋していた時、こんな気持ちだったの?』

秘密を持つことは、大人になった証し。

もう昨日までの絵里加のように、すべてを明け透けにできない。