健吾も絵里加も 我が子がこんなに可愛いとは思っていなかった。

産まれた我が子を 抱いた瞬間から湧き上がる愛情。

自分以上に大切な存在。

この子達を守るためなら どんな苦労もできると思った。
 

長女の結子は 絵里加の誕生日の一日前に産まれた。

絵里加は妊娠中も順調で つわりも軽く 8カ月まで父の会社で働いていた。

出産予定日が誕生日と近かったので あと一日待ちたかったけれど。

結子は24才になる一日前に 絵里加を母にした。
 

陣痛が始まって 出産に怯える絵里加。

健吾は病室で 手を握って励まし続ける。

立会い出産を望む健吾を拒否して 絵里加は一人で出産に挑む。


助産婦さんには 安産と言われたけれど 絵里加にとっては恐ろしく苦しい時間だった。
 

それでも 産まれた結子を胸に抱いた瞬間に 苦しみは消え去る。

未知の愛情が湧き上がり 愛しさと涙が溢れた。


出産直後に 部屋に入った健吾。

憔悴した絵里加の胸から 結子を受取り 胸に抱いたまま涙を流した。
 

「絵里加、ありがとう。」

途切れ途切れに言う。

胸に抱いた結子に頬を寄せて“ 可愛い” と繰り返す。

健吾の涙は 愛の全てだった。