「それと、差し出がましいかと思ったのですが 二人に旅行の予約を させていただきました。」父が、控えめに言う。


「ありがとうございます。健吾から聞きまして、本当に良いのでしょうか。」

健吾のお父様は、父の意志を確認する。
 

「大切なことですから。」父の言葉に、主語はない。

でも、みんなわかっている。


健吾は感謝と責任のこもった目で、静かに頷く。
 

「ありがとうございます。思いっきり楽しんできます。」

と絵里加を見た。絵里加も笑顔で頷く。
 

「俺達 全然 生活力なくて。全部 親がかりで情けないけど。でも ずっと絵里加と生きていきたいっていう気持ちは 変わらないから。ね?」

健吾は絵里加を見る。
 
「はい。いつか二人で、必ず、親孝行します。」

絵里加の言葉に、両方の親が笑う。
 


「こういう所なんです。絵里ちゃん ジュース一杯でも 当たり前って思わないの。本当に良い子です。」健吾のお母様が言う。
 

「でも、結局はお世話になってしまっています。」

絵里加は、控えめに小さく言う。
 

「いいんだよ。親ができるうちは。甘えることも、親孝行だから。ゆっくり成長してくれればね。」

健吾のお父様の 温かい言葉に 絵里加だけでなく 父と母も感動していた。
 


大切に、丁寧に育てた絵里加だから。

できれば、信念の似た家庭に嫁がせたい。


絵里加の両親が、健吾に託す決心ができたのは 健吾の両親から 同じ思いを感じたから。

すでに十分な援助を準備してくれた。
 

健吾の両親も そこまでしてでも まだ学生の二人でも これ以上の縁はないと確信したから。

二人がまだ無垢なうちに すべてを整えてしまいたいと思う。


箱入り娘の絵里が、結婚しても箱入り嫁でいるために。