「あれ。絵里加。珍しいね。」

大学に向かう電車の中で、声を掛けられた。

小学校から一緒の、間宮健吾だった。
 

「あ、ケンケン。おはよう。」

朝、都心から離れる電車は空いている。

絵里加は、座って文庫本を開いていた。
 

「ここ、座ってもいい?」

健吾は、絵里加の隣を指す。

そんな控えめな気使いに、絵里加はホッとする。
 

「もちろん。絵里加、今日は遅いの。ケンケンは、いつもこの時間なの?」

絵里加は本を閉じて、健吾の方を向く。
 

「これでも、余裕で間に合うよ。絵里加はいつも何時の電車に乗っているの?」
 

「1限目に出る時は、11分か遅くても18分だよ。」

絵里加が答えると、健吾はフッと笑い、

「だから、会ったことないんだ。」と言う。