──ことの始まりは、こうだ。

 四年制の公立大学を卒業した後、都内で名の知れた大手不動産会社に就職した花は、仕事に追われながらも順風満帆な日々を送っていた。

 新人の頃はただガムシャラに仕事をこなし、休日返上も当たり前。靴のヒールが三ヶ月でボロボロになるほど、花は営業に勤しんだ。

 すると三年が経った頃に功績が買われて、本社に二年間の出向を言い渡されるまでになった。

 夢にまで見た出世コース。

 人生は頑張ったら頑張っただけ報われるのだと、このとき花は確信した。

(ようやく、実家で一人暮らしをしているお父さんを安心させてあげられる……)

 幼い頃に母を亡くした花にとって、父は唯一の肉親だ。

 静岡市内で小さな電気屋を営む父との暮らしは、決して裕福とは言えないどころか絵に描いたような貧乏生活であったが、親子二人三脚で今日までなんとか生き延びたのだ。

 だからこそ、上司に出向を言い渡されたときには天にも登るような気持ちだった。

 父に電話で報告したときにも、父は電話口で娘の花が引くほどの男泣きをしていた。