熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「八雲さんが庇ってくれて……その、あの……嬉しかったです……」


 花は頬にかかった髪を耳にかけながら、精一杯の想いを口にする。

 自分が今、何かとんでもないことを言っているのは気がついていた。

 そう思うと顔を上げていられなくなり、花の視線は自然と足元へと落ちていた。


「え、えっと……あの、その……」

「……どうして先程、薙光から心付けを受け取らなかった?」


 と、そんな花の心情を知ってか知らずか、不意に八雲は花に向き直ると、今度は自分の思うところを花にぶつけた。


「え……」


 突然の八雲からの問いに、花は弾かれたように顔を上げて固まってしまう。

 花がどうして、薙光からの心付けを受け取らなかったのか──。

 たった今問われた八雲からの質問を心の中で反復した花は、すぐに我にかえると今の正直な気持ちをそのまま、八雲へと打ち明けた。 


「ここを離れると思ったら……急に寂しくなっちゃったんです」

「寂しく……?」


 予想外の花の返事に、今度は八雲が驚いて目を見開き固まった。


「もちろん最初は、早く現世に帰りたいって思ってたんですけど……。でも今は、ぽん太さんや黒桜さん、ちょう助くんたちのおかげで、つくものことが大好きになりました」


 ようやく今、八雲を前に八雲がした質問の答えを告げられた。

 けれど本当は今、口にしたことだけではない。

 もちろん、今目の前にいる八雲のお陰もあるが、八雲を前にしてそれを口にする勇気は、今の花は持ち合わせていなかった。