まさか支払いに、現世に流通している現金が使えないというのは盲点だった。

 ある意味キャッシュレスの時代に遅れを取らず、ポイント制を導入しているあたりシステムは最新だが、花からすれば迷惑千万にも程があった。

 しかし、そんな浮世離れしたこの場所に、当初は戸惑っていた花も今ではすっかり受け入れ体制になっている。

 花はふと冷静になると、そんな自分に頭が痛くなることもあるのだが……。


(でもまぁ……別に、命の危機を感じるような怖い目にあってるわけでもないし、つくもでの生活に何か困ってることがあるわけでもないし……)


 寧ろ、毎日三食、一流の料理人が作ったご飯にあやかり、幸せな日々を送っていると言ったほうが良いかもしれない。

 加えて仕事終わりには良質な熱海の天然温泉に浸かって疲れを癒やし、清々しい畳の香りに包まれつつ、ふかふかの布団で眠るという【極楽湯屋】の名の通り、まさに極楽生活だ。

 現に花はここへ来て、前職を退職するまでの約一ヶ月で心労により落とした体重を、元に戻した上に、そこからプラス2キロも増やして肉付きを良くしていた。

 更にバランスの取れた食事に規則正しい生活と、良質な温泉の効果か肌のコンディションはここ数年で最高と言っても過言ではない。