「あ……。そういえば、ぽん太さんたちに何もお土産を買わなかったけど、いいんでしょうか」
大楠神社の鳥居の前で来たときのように一礼をした花は、頭を上げるなりそう言って八雲を見た。
そのときだ。右脇の坂を上がった数メートル先に、小さなワゴンの出店が出ているのを見つけた。
ワゴンの前には【寄木細工】という文字が書かれていて、ご夫婦の店主が観光客向けにお土産品を売っているようだった。
「バスが来るまで、まだ少し時間ありますよね!? 私、あそこのお店を見てきてもいいですか!?」
「やめておけ」
けれど、ワゴンを覗きに行こうとした花を、八雲の呆れたような声が引き止めた。
「ものに、ものを買ってどうする。何より、熱海に住んでいるものに、熱海の土産など買っていっても意味がないだろう」
至極真っ当な意見だが、身も蓋もない言い方だった。
(こういうところが、可愛げがないというか、なんというか……)
花の不満は、また顔に出ていたのだろう。
「ふぅ」と長く息を吐いた八雲は、チラリと腕時計で時間を確認してから、「見るだけだぞ」と呟いて瞼を閉じた。



