「席は、あの一番端でいいな」
「は、はい……。すみません、ごちそうさまです」
受け取った品の乗ったトレーを持つ八雲に花がお礼を言うと、八雲は「ん」と最小限の返事をくれた。
そうしてふたりで、空いているテラス席へと歩を進めると、向かい合わせに腰を下ろした。
雄大な自然に囲まれた一席は、ここが神社の境内の中だということを忘れさせる。
川のせせらぎをBGMに、花はテーブルに乗った【ロールケーキ】を見て感嘆した。
「ははぁ……。これが、弁財天様をも虜にした、麦こがしにちなんだお菓子……スイーツなんですね」
花が悩みに悩んで注文したのは、麦こがしを使ったロールケーキだった。
見た目はまるで、大樹の切り株のようである。
たっぷりのクリームの中に大納言小豆と胡桃が入った、和スイーツだ。
「樹齢二千百年の大楠がある大楠神社ならではのスイーツですよね! すっっごく、美味しそう!」
他にも麦こがしにちなんだメニューはいくつかあったが、大楠に感動したあとだったので結局大楠にちなんだものを選んで注文したのだ。
「八雲さん、本当に生姜入り甘酒だけで良かったんですか⁉ せっかくなら、他にも何かデザートを頼めば良かったのに」
瞳を輝かせる花を前に、八雲は呆れたように息を吐く。



