「八雲さん?」
「……それで、どこで食べるつもりだ」
「え?」
「麦こがし、食べるんだろう。どこで買って食べるつもりなんだ」
八雲の問いに、花は一瞬キョトンとしてから改めて先程の弁財天たちのと会話を思い浮かべた。
(確か弁財天様は、大楠神社にも素敵な茶寮ができて、麦こがしにちなんだお菓子を食べられるようになった──って言ってたよね)
そこまで考えてあることを思い出した花は、顔を上げてある場所を見上げた。
それは先程、大楠から本殿まで戻ってくる道すがらにあったカフェだった。
よくよく考えてみれば境内の中にカフェがあるとは、なんと近代的だろう。
「弁財天様が言っていた茶寮って、あそこですかね?」
花が指差す方へと目を向けた八雲は「そういえば、そんなことも言っていたな」と、また短く息を吐いた。
「でも、境内にカフェがあるってすごいですよね! それに、すごくオシャレなカフェだし」
「カフェではなく、茶寮だろう。……とにかく、行くならさっさと行くぞ。まごまごしていたら、帰る時間も遅くなる」
そう言うと、八雲はさっさと茶寮に向かって歩き出した。
そんな八雲の背中を追いかける花の頭の中は、【麦こがし】で埋め尽くされていた。



