「あ、あの! 私……つくもに帰る前に、さっき弁天岩さんと弁財天様が言ってた麦こがしを食べてみたいです……!」
八雲が花を振り返る。
そして、掴まれた袖と上目遣いで自分を見る花の顔を交互に見た。
七福神の中でも紅一点の弁財天が、人に紛れてでも現世に食べにくるという【麦こがし】。
自他ともに認める食いしん坊の花が、是非食べたい思うのは当然だろう。
「ダメ……ですか?」
遠慮がちに尋ねる花を前に、八雲は一瞬固まった。
そして、フイっと視線を逸してから短く息を吐くと瞼を閉じて、とても静かに口を開く。
「……仕方がないな」
八雲の返事を聞いた花は、パァッと表情を明るくした。
「ありがとうございます!」
元気の良い返事を聞いた八雲は目を開けると、花から一歩距離を取った。



