「そうなんですね……。麦こがし、知りませんでした。教えてくださって、ありがとうございます!」
花が元気よく答えると、弁天岩はまた「ふんっ!」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
弁天岩は弁天岩なりに、花に無礼な態度を取ったことを反省したのだろう。
つるんとした後頭部を眺めながら、花は穏やかな笑みを浮かべた。
「それじゃあ、八雲さん、花さん。今日はどうもありがとう。花さん、またいつでも遊びにいらしてね。弁天岩とここで一緒に待っているわ」
「……近いうちに必ずだ!」
弁財天と弁天岩のその言葉を合図に、ゆっくりと白い靄が晴れていく。
慌てて「こちらこそ、ありがとうございました! また必ず遊びに来ます!」と花が声を上げると、ゆらゆらと揺れる視界の向こうで弁財天と弁天岩が微笑んだような気がした。
「あ──……あれ?」
次に視界が開けたときには、花は弁天岩のある大楠神社境内の池の前に立っていた。
目を白黒させる花を横目に、八雲が飛び石を渡って戻ってくる。
「や、八雲さん、今のは……」
隣に立った八雲に花が尋ねると、八雲は徐に弁天岩と弁財天の社を振り返った。



