熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「それでは、我々はこれで──」

「……小娘。せっかくここ大楠神社に来たのだから、帰る前に麦こがしを食べていくといい」


 そのとき、徐に口を開いて八雲の言葉を切ったのは、弁財天に叱られて小さくなっていた弁天岩だ。

 弁天岩の言葉にキョトンとした花は、「(むぎ)こがし?」と呟いて首を傾げる。


「麦こがしっていうのはね、麦を炒ってひき粉末にしたもので、古くからこの地に根付いている由緒正しき食べ物なんですよ」


 弁財天は微笑みながらそう言うと、弁天岩の頭を撫でた。


「ここ、大楠神社にも素敵な茶寮ができてね。麦こがしにちなんだお菓子を食べられるようになったんです」


 ふふっと声を零して笑った弁財天は、「私も大好きで、ときどき人に紛れて食べに行くの」と言葉を続けた。