「し、しかしっ、弁財天様……っ!」
「さぁさぁ、この話はこれでおしまい。これ以上、私のお客様に無礼を働くとなれば、いくらあなたが相手でも、容赦はしませんよ」
「ぐ、ぅ……っ」
まさに鶴の一声だ。
弁財天に凄まれた弁天岩は、ようやく勢いを失くして元の位置へ戻って萎れた。
「……花さん、本当にごめんなさいね。この子は、あなたにヤキモチを妬いているのよ」
「ヤキモチ……?」
「子供の頃から可愛がっていた八雲さんが、花さんにとられたみたいで寂しいの。それに最近は八雲さんも忙しくて、ここには来られなかったから余計に……。だから、どうか許していただけないかしら。またこの子が花さんに悪態をつくようなら、そのときは私が今度こそしっかりと、お灸を据えるとお約束しますから」
かの弁財天ともなる女神様に頭を下げられたら、花は頷かないわけにはいかなかった。
そもそも今は……それどころではない。
たった今八雲に言われた言葉がぐるぐると頭の中を巡っていて、高鳴る心臓を落ち着けるのに必死だった。
「い、いえいえ。全然気にしていないので、どうかお気になさらず……」
花がそう言って顔の前で手を振ると、弁財天は「ありがとう」と零して小さく笑った。
「八雲さんと、どうか末永くお幸せにね」
続けられた言葉に、また心臓が大きく跳ねる。
末永くお幸せに──なんて。
万が一にもあり得ないことだが、否定するわけにもいかず、花は迷った末に頷くことしかできなかった。



