「花は、私の妻となる女性です。先程、弁天岩殿は名家の子女と見合いを……と仰りましたが、私は花以外の女性を妻に娶る気はありませんし、今後も花以外の女性をつくもに迎えるつもりもございません」
断言した八雲を前に、弁天岩だけでなく弁財天、そして花も驚いて目を見張った。
「それに、確かに弁財天様の美しさには敵わないかもしれませんが……。花はとても可愛らしい容姿をしていると思いますし、その花が芋に似ているなどと、弁天岩殿はお年で少々目が悪くなられたのではありませんか?」
フッと息を零すように笑った八雲は、目を細めて弁天岩を見つめた。
思いもよらない八雲の言葉に、花は衝撃を受け、顔を真っ赤にしながら固まってしまう。
「人の好みにまでケチをつけるとは、弁天岩殿も随分と人が悪い」
「な、な、生意気を言いおって! つい最近まで洟垂れ小僧だった奴が、このわしにそのような口を聞いて良いと思うのかっ!」
対して怒りで顔を赤くした弁天岩は、八雲の目の前まで降りてくると大口を開け、シャーッと長い舌を出した。
完全なる臨戦体制だ。花はおろおろとしながら、ふたりの様子を見ていることしかできなかった。
「これこれ、弁天岩。そもそも、今のはあなたが悪いでしょう」
けれど、そんな弁天岩の身体を、弁財天がムギュッと掴んで引き戻した。



