熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 


「は、はいっ! ご挨拶が遅れて、申し訳ありませんっ。私、丹沢 花と申します! この度は弁財天様と弁天岩さんにお目にかかることができて、大変光栄でございます!」


 なんとか無事にご挨拶の言葉を述べた花は、皆目麗しい弁財天の瞳を見つめた。

 透き通るような黒い瞳だ。長いまつ毛は羽のようで、赤い唇は魅惑的に弧を描いている。


「まぁ……花さんと仰るのね。素敵な名前だわ。それに元気なのも良いですね。改めて、今日は来てくださってありがとう。私は弁財天。そしてこちらの白蛇は、弁天岩。今日はお会い出来て嬉しいです」


 やわらかな笑みを浮かべた弁財天の言葉に、花は恐縮しながら「こちらこそ、ありがとうございます」と返事をした。

 弁財天は、かの有名な七福神の中でも唯一の女神で、琵琶を弾いている姿が広く知られている。

 学問、芸術、豊穣、繁栄……更に勝負事に御利益のある神様で、その名を知らない人はいないのでは?というほど有名な神様だった。

 さすがの花でも、弁財天がすごい女神様だということはわかる。

 そんな弁財天にまで、まさか嘘をつくことになるとは……。

 罰当たりにも程がある気がしてならないが、すべては地獄行き回避のためなのだから仕方がないと花は開き直るしかなかった。