熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 


 なんだかまるで、つくもにきたときのようだ──と考えた花は、数回瞬きを繰り返す。

 すると何度目かの瞬きのあと、唐突に目の前に見たこともない女性が現れ、思わずゴクリと息を呑んだ。


「え……」


 いつ、どのタイミングで現れたのか、わからなかった。

 八雲が触れている弁天岩の上に、白い蛇を連れた美しい女性が座っている。


「ふふっ、驚かせてごめんなさい。今日は、来てくださってありがとう」


 女性は目を白黒させる花を前に、上品かつ和やかな笑みを浮かべた。

 琴の音色のように穏やかで耳に心地の良い声は、女性の美しさをより際立たせる。


「お久しぶりです、弁財天(べんざいてん)様」


 次に口を開いたのは八雲だった。

 八雲の言葉にまた驚いた花は目を見張ると、改めて美しい女性の顔をまじまじと見つめた。