熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

(また必ず──ここに来ます)


 心の中でそう呟いた花は、ゆっくりと地面に足を降ろす。

 すると直後、強い風が吹き、ざわざわと大楠の葉がざわめいた。


「すみません、お待たせしました……!」


 そうして一瞬にも永遠にも感じる時間を体験した花は、大楠をぐるりと一周したあと八雲のもとへと駆け足で戻った。

 花の帰りを待ち構えていた八雲は、駆け寄ってきた花を前にそっと口角を上げてから、穏やかな様子で口を開く。


「一日でも早く、現世に帰りたいとでも願ったのか?」


 からかうような物言いに、花は「違いますよ」と答えて唇を尖らせた。


「傘姫のことを、お願いしてきたんです」

「……傘姫のこと?」

「はい。傘姫と源翁さんが、来世で無事に巡り会って、末永く幸せに暮らせますようにとお願いしてきました」


 言いながら花は大楠を振り返った。

 何か願いごとを、と考えたときに一番に思い浮かんだのが傘姫と源翁のことだったのだ。