樹齢二千百年の大楠は、近づけば近づくほど身体に電気が走るような強い生命力を感じさせ、見る者を圧倒した。
太古より天変地異にも耐えた大樹は、今もなお地面に深く根を張り、青々とした楠の葉を茂らせる。
右手からぐるりと回れば、後ろに大きなくぼみを見つけることができ、すぐ隣の張り出ているところには手で触れることができた。
前を行く人に習って、花もそっと大楠に触れてみる。
「え──」
その瞬間、指先がじんわりと温まるような感動を覚えた花は、大楠に誘われるように宙を見上げた。
(まるで──私達、人と同じように呼吸をしているみたい)
瞼を閉じて、すぅ、と息を吸い込む。
そうすれば身体の中を爽やかな風が駆け抜けていくようだった。
名残を惜しみながら指先を離せば、大楠に触れていた右手のひらが熱かった。
手の中に残った熱を握り締めた花は、小さく頭を下げてから再び足を前へと運ぶ。
通路を進んで左側横に出れば、また雄大な幹に圧倒され、花は瞬きを忘れて大楠を眺めた。
──幹を、龍と蛇が守っている。
それは張り出た幹の部分が龍と蛇の形をしているように見えただけの話なのだが、花には本当にそれらがこの大楠を守り支えているように思えた。



