(樹齢二千百年の大楠を見るのは、きっと一番最後だよね……)
花は思わずチラリと、八雲の様子を窺った。
すると花の視線に気がついた八雲は、眉根を寄せてから小さく溜め息をつくと視線を本殿の向かって左側へと滑らせた。
「……仕方がない。先にそちらへ行くか」
「え……」
「別に、急いで弁天岩のところへ行く必要もないしな。……大楠を見るのを、お前なりに楽しみにしていたんだろう?」
八雲はそう言うと、フイ、と顔を逸らしてしまう。
それが照れ隠しからくる仕草だと、鈍い花も流石に気がついた。
八雲も八雲なりに、先程、不躾な言動をしてしまったことを反省していたのだ。
そんな八雲を前に表情を明るくした花は、「はいっ!」と元気に返事をして頷いた。
「……さっさと行くぞ」
そうしてふたりは踵を返すと、大楠へと続く細道へ足を向けた。
八雲の思いを肌で感じた花の足取りは、先程までとは違って軽やかだ。
(八雲さんも、大概素直じゃないよね)
けれどそれは口には出さない。
花自身も自分が素直になれない性格なのを重々理解しているのでお互い様だ。



