「弁天岩には適当に誤魔化してくるから問題ない。嫁は人見知りが激しい性格で来られないとでも、なんとでも言えばいいだけの話だ」
けれど、それを聞いた花は黙ってなどいられなかった。
「私が人見知りが激しいって……。それじゃあ、なんだか私が弁天岩さんに会いたくないって言ってるみたいじゃないですか!」
声を上げた花は、キッと八雲を睨みつけた。
睨まれた八雲は虚をつかれたように片眉を持ち上げると、口を噤んで花を見る。
【巷で噂になっている八雲の嫁の話】は、今では尾ひれがつきすぎて大変なことになっているというのは、先日つくもを訪れた付喪神から花自身が聞かされた話だ。
『あの傘姫に負けず劣らずの美しい娘だと聞いていたのだが……。う〜む、これは少々、噂が独り歩きしすぎとるかのぅ』
花の顔を見るなりそう言った付喪神は、『まぁ、ドンマイドンマイ』と笑ったが、当事者である花自身は引き攣った笑顔を浮かべるので精一杯だった。
まず、失礼千万も甚だしい。
次に、花があの天女のような美しさを持つ傘姫と並ぶ美女だなんて噂は、有難迷惑にもほどがあった。
(虎之丞を言い負かした女だとか、大食漢の大女とか、絶世の美女だとか……)
そこへ来てまた、花が『人見知りが激しい』などと吹聴されたら、今度はどんな解釈をされるかわからない。



