「……今回は、よくやったな。お前の想いはきちんと傘姫に届いていたはずだ」

「──っ!」


 そう言った八雲は花を見て、とても綺麗な笑みを浮かべた。

 目元にたたえられた微笑みは、今までに見たこともないほど柔和なもので、花は思わず狐につままれたような顔をして固まった。


(……っていうか、)


 八雲の笑顔を見るのは、これが初めてだった。

 これまでは基本的には無表情か仏頂面ばかり見せられていたせいで、振り幅の広さに狼狽えずにはいられない。


(い、色男の不意打ちの笑顔、殺傷力抜群……!)


 花は慌てて赤くなった頬を誤魔化すように、視線を足元へと逸らした。

 握り締めた拳を解いて、自身の口元を隠すように手の甲を当てれば、僅かに息が震えていることに気がついた。


「そ、それなら良かったです。というか私も傘姫みたいに、生涯を捧げようと思える相手にいつか巡り会いたいなぁ〜」


 それは完全に照れ隠しのために出た言葉であったが、赤が差した顔は言葉では隠せない。


「また不倫などという、道ならぬ恋に落ちないといいな」

「は、ハァ⁉ 今なんて言いました、八雲さん⁉」


 咄嗟に声を上げると、八雲はクスクスと声を零して楽しげに笑った。

 またその無邪気な笑顔が珍しいもので──花は怒りも吹き飛ぶほど真っ赤になって固まり、続く反撃の声を上げることができなかった。