「付喪神である私は、主人の最後の願いを百年でも二百年でも叶えるために生きてゆきます。だから源翁様、どうかご安心くださいませ。あなたの愛したものが……私達が過ごしたあの場所が、この先も美しく在り続けるように、傘姫はこの身が朽ち果てるまで、守り続けると誓います」
涙を払い、今は亡き想い人を前に改めて誓いを立てる傘姫の愛の深さを目の当たりにした花の目からは、自然と涙が零れ落ちていた。
──以前、八雲が『付喪神が本懐を遂げて成仏することは滅多にない』と言っていたが、花は改めてその現実を思い知った。
百年以上を生きる付喪神は、持ち主である人と同じ時間軸は生きられない。
持ち主が旅立ったあとも、傘姫は器であるものが現世に有り続ける限り、成仏することは許されないのだ。
そして今の傘姫の持ち主は源翁ではなく、源翁和尚とともに過ごした寺院の主に違いない。
ともすれば傘姫には、本懐を遂げての成仏は難しい。
なぜなら傘姫の本懐とは、源翁と約束したとおり、『ふたりが出会い、過ごした寺院を見守り続けること』に違いなく、その約束には期限はないに等しいのだ。
もちろん、源翁からすれば傘姫に少しでも長く現世にいてほしいという想いもあったのだろう。それは人なら、ほとんどの人が願うことだろうと花も思う。
自分の大切な人には、少しでも長く幸せに生きてほしい。
たとえ自分が現世からいなくなったとしても……。
花の母も花にそう言い残して、先に常世へ旅立った。



