「私と源翁様は……本来ならば、住む世界の違うもの同士。決して結ばれることはないと知りながらも、道ならぬ恋に落ちました」
それは、ふたりの悲しい恋の話だった。
付喪神である傘姫と、人である源翁和尚。ふたりがどのようにして出会い、心を通わせたのかはわからない。
けれど、それが決して甘いばかりの話ではないことは、今の傘姫を見ていれば伝わってきた。
「源翁様はいつも、月の美しい夜には私のそばにいてくださいました。私と出会えたことは、何物にも代えがたい宝のようだと……そう言って、私を抱き締めてくださいました」
白い月灯りの下で、寄り添うふたりの姿は不思議と容易に想像することができた。
美しい傘姫と、彼女を包み込むようにしてそばに立つ源翁和尚。
「源翁様は最期の最期まで、私を大切にしてくださったのです。私のことを心から愛していたと……。そして自分が死んだあとも、私達が出会い過ごしたこの寺を、見守り続けてほしいと私に願い、亡くなりました」
──それが、五十年前の今日に交わされた、ふたりの約束なのだろう。
そして愛する人がいなくなっても尚、傘姫が現世で生きる理由だった。



