「失礼いたします。ご夕食の準備が整いましたので、お持ちいたしました」
八雲が声をかけると、「……どうぞ」という傘姫のか細い声が中から聞こえた。
ゆっくりと扉を開けて、花と八雲は中に足を踏み入れる。
座卓の前には先程と変わらぬ様子で、傘姫と源翁が向かい合って座っていた。
傘姫の頬には相変わらず恥じらいの赤が差していて、源翁を真っすぐには見られないといった様子の彼女は八雲と花を見るなりホッとしたように息を吐いた。
「お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした」
花はそんな傘姫を微笑ましく見つめながら、用意してきた食事を、ふたりの前へと静かに並べた。
コトン……と、小さな音が部屋の中に木霊する。
「え……」
「本日のご夕食には、つくも特性ビーフシチューをご用意させていただきました」
座卓に置かれたのは、和の空間には不似合いの洋食器たちだった。
真っ白な口の広い器の中では、深く濃い飴色が輝いている。
重なるように二切れ並んだ牛肉は厚みがあり、デミグラスソースとよく絡み合っていた。
付け合せには、パンプキンスープと焼き立てのパン。
どちらからもホワホワとした白い湯気が立っていて、見ているだけで食欲をそそられる。



