「え?」
「ひとつは俺が運ぶ。ちょう助はまだデザートの準備もあるだろう」
花が弾かれたように振り向くと、そこには八雲が立っていた。
「あ、あれ? 八雲さん、なんで……」
「なんでも何もない。あの部屋に今、俺がいたら邪魔だろう。傘姫は相変わらず何も話そうとはしなかったが……。それでもさすがに、あの場にいるのは気が引けた」
両手を着物の袖に入れ、眉根を寄せて難しい顔をした八雲は余程気まずい思いをしたのだろう。
なんだかおかしくなった花は、思わずクスリと笑みを溢した。
「傘姫、好きな人の前だとすごく可愛い女の子ですね。私もなんだか、傘姫につられて照れちゃいました」
「……ふん、まぁいい。とにかく運ぶぞ。ぽん太がボロを出さないうちにな」
毒とも言えない毒を吐いた八雲は、そう言うと用意されていたお盆のひとつを手に取った。
自ずと前を行く八雲の後ろについた花は、廊下を歩き、再び傘姫とぽん太の待つ梅の間の前で足を止めた。



