「そして大抵、付喪神は主人の愛したものを愛する傾向がある。つまり、付喪神の食の好みは仕えていた主人の好みと似るということです」
そう言うと黒桜は改めて、開かれたページに目を落とした。
「そんな彼らの好物を見ると……。ふむふむ、洋食なら【ビーフシチュー】が好きという意見が多いですね」
「ビーフシチュー?」
黒桜の言葉に、花は驚いて目を見張った。
ビーフシチューなら確かに肉料理と言えるだろうが、文豪たちが愛したビーフシチューとは一体どのようなものなのだろう。
「あ……そういえば、前に登紀子さんが、熱海にはとろとろの絶品ビーフシチューを出す老舗洋食店があるって言ってたような……」
「と、とろとろの絶品ビーフシチュー……!?」
「うん。濃厚なデミグラスソースには野菜の旨味が凝縮されていて、お肉はナイフがいらないくらい柔らかくて、口に入れた瞬間にホロホロっと溶けるんだって」
ちょう助の言葉を聞いた花は、思わずゴクリと喉を鳴らした。
そんなビーフシチューがあるのなら、是非一度……と言わず何度でも、お目にかかりたいというものだ。



