熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「く、黒桜さん、すごすぎます! ほんとにパソコン以上ですよ! さすがです!」


 花が褒めると、黒桜は照れながらもフフンと鼻を高くした。

 そして「本題はここからです」と言って、嬉しそうに話の続きを始める。


「付喪神になるほど長い年月を生きた"もの"は、基本的には持ち主に大事にされていたものがほとんどなのです」


 ただし、例外はある。ちょう助のように置き去りにされ、ひとり寂しく年月を過ごしたものも中にはいるということだ。


「だから付喪神のほとんどが、己の主人のことを生涯忘れることはないのです」

「……俺も、前の主人の顔はちゃんと覚えてるしね」


 寂しそうにちょう助が言う。

 付喪神は基本的には人と共存して生きているものなのだ。

 だから今のちょう助の主人は、ちょう助を見つけ出した八雲ということになるのだろう。

 それでも付喪神は主人が変わっても、前の主人のことを忘れない。

 だからちょう助は、自分を捨てた前の主人の顔を、今でも忘れられずにいるのだろう。