熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「ま、魔法みたい……」

「神術だよ」


 ちょう助はさも当然のことのように答えたが、人である花からすれば、まるでお伽噺の世界を覗いているようだ。


「ああ……いました」


 と、しばらく集中していた黒桜が、何気なくそう言って目を開けた。

 すると今の今までパラパラと捲られていたページがピタリと止まり、黒桜は人差し指でそこに書かれた文字をなぞった。


「筆の、付喪神……?」

「ええ、何人かいて探すのに手こずりましたが、熱海に縁のある文人に仕えていたものを拾い上げてみました」


 つまり今、黒桜は数ある付喪神たちの中から、筆の付喪神だけを寄りすぐっていたのだろう。

 更にその中から目当ての付喪神を探し出し、拾い上げたというわけだ。