熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「週末に傘姫が来るってことを黒桜さんに聞いてから、傘姫にどんな料理をお出したらいいのか悩んでて……。実はさっきの新作デザートの試食が終わったら、それを相談しようと思ってたんだ」


 開かれたページには、可愛らしい丸文字でレシピらしきものが書かれていた。

 それはちょう助が料理長を任される以前から書き溜めた、レシピノートに違いない。


「前料理長だった登紀子さんも悩んでたんだけど、傘姫は食が細くて、毎回お出しするお料理を全部食べきれないんだ」


 それを聞いたぽん太が、「花とは真逆じゃな」と余計なことをぽつりと呟く。


「それで毎回帰り際に、せっかく美味しい料理を出してもらったのに食べきれなくて申し訳ないって謝ってくれるんだけど……。登紀子さんは、お客様を恐縮させてしまうのはこちらの落ち度だって言っててさ。今回もそうならないように、何か対策を立てないといけないと思ってたんだ」


 再び「うーん」と唸ったちょう助は、腕を組んで長いまつ毛を僅かに伏せた。

 生真面目らしいちょう助の悩みに、花は荒んでいた心がほっこりと温かくなるのを感じる。