「や、八雲さん……いつから……」
花は今の今まで話していたことを聞かれていたのではないかと肝を冷やしたが、八雲は相変わらず顔色ひとつ変えることはせず、淡々と要件だけを述べていった。
「週末は確か、傘姫が来るだろう。ということは、ここにも久方ぶりに雨が降る。外の掃除は早めに済ませておくべきだ」
言いながら、八雲は窓の外を眺めた。
均整のとれた横顔は今日も美術品のように美しいが、どこか遠くを見るような目をしている。
「そうでした、傘姫がいらっしゃるのでした」
「おお、今年ももうそんな時期かのぅ」
「あの……傘姫って?」
花が尋ねると、黒桜が柔らかな笑みを浮かべて質問に答えてくれる。
「傘姫は、大番傘の付喪神なのですよ。普段は鎌倉の寺院に勤めておられて、つい五十年ほど前から年に一度だけ決まった日に、つくもを訪れるようになったのです」
黒桜の言葉に花は目を丸くした。
虎之丞をもてなしたあと、数人の付喪神様をおもてなししたが、毎年決まった日に訪れる付喪神様というのは初めてだ。



