「や、八雲さんが、付喪神ではなく、人……?」
「そうじゃよ。まぁ……ほんの少しだけ、あやかしの血が混じっておるのは確かじゃが。八雲は我々とは違い寿命のある、ほぼ普通の人じゃよ。──ひ・と」
ぽん太が、念を押すように言う。
(八雲さんが付喪神ではなく、私と同じ"人"──)
思いもよらぬ事実に花は一瞬時を忘れたように硬直したが、すぐに我にかえると目を瞬かせ、三人に食ってかかった。
「い、いやいやいやいや、嘘ですよね!? だってそれなら、どうして私と同じ"人"である八雲さんが、つくもの九代目なんてやってるんですか!?」
現世と常世の狭間にある、付喪神様専用宿の若旦那。
従業員たちも全員付喪神で、訪れる客も全員付喪神のこの場所に、人がいること自体おかしな話だと思う。
花は特例だ。だから当然、八雲も何か器のある付喪神様なのだとばかり思っていたし、だからこそ八雲は、人である花がここにいることに嫌悪感を抱いているものとばかり思っていた。
「どうして、と言われてものぅ」
「先祖代々、そういう家系なのですよ。八雲坊の家名は【境界】というのですが、その境界家の先祖があやかしだったというだけの話です」
つまり、八雲の本名は【境界八雲】ということか。
しかし、先祖があやかしだったというだけの話と言われても、ああそうなんですねと簡単に納得できることではない。



