「ほんに、花はなんでも食べるからのぅ」

「花さんが出された食事を残したところは見たことがないですしねぇ」


 呆れながらも笑顔を見せるのは、ぽん太と黒桜の古参ふたり組だ。

 そう言うふたりも、ちょう助が作った新作メニューに舌鼓を打っていたところである。


「そんなこと言ったって……子供の頃から食べることが幸せだったんですよ。お父さんの口癖も、"食べられるときに食べておけ! タダより美味い飯はない"だったし……」

「それを言うなら、"タダより安いものはない"じゃないの?」

「そうそう。それ、大人になってからお父さんが間違ってたことに気がついたんだよねぇ。でもあの頃は、近所のおばちゃんからお裾分けしてもらったおかずとか、貰いものに助けられてたからお父さんの言ったことを事実だと思ってて……」


 花は当時を思い出しながら、最後の一口を口に入れるとじっくりと味わった。

 三つ子の魂百までとはよく言うが、貧乏が嫌というほど身体に染み付いているというのも悲しい話だ。

 しかし、ここへ来て毎日ちょう助が作るまかないを食べている花は、僅かに自分の身体が重くなったことにも気がついていた。

 それは嬉しいような危機を感じるような……嫁入り前の乙女としては、なんとも複雑な気持ちになる。