「ちょう助くんの作るお料理を食べると、頑張ろうって思えるの。何よりちょう助くんの作る料理が美味しいんだってこと、私はよく知ってるから……これからも、自信を持ってお客様にお出しできるよ」
美味しいご飯には人を笑顔にする力がある。
花は今回、それを身を持って実感した。
つくもに来てからの不安な日々も、ちょう助が作ったご飯を食べたら不思議と元気になれたのだ。
「本当に、ありがとう」
花はもう一度ちょう助にお礼を言って笑った。
けれど花のその笑顔を見たちょう助は、一瞬だけ苦々しい顔をして、また視線を斜め下へと落としてしまう。
「ちょう助くん?」
「俺……もともとは、熱海にあった小さな旅館で使われていた包丁なんだ」
「え……」
突然、ぽつり、ぽつりと話しだしたちょう助の言葉に、花は驚いて目を見張る。
「毎日毎日、お客様のために美味しい料理を作ろうって頑張ってた。でも、結局その旅館は潰れちゃって……。それで、俺は中途半端に片付けられた荷物と一緒に、廃旅館に置き去りにされたんだ」
埃っぽい段ボールの匂いと、光の差し込まない闇の中。
人に使うだけ使われて置き去りにされ、何年、何十年と、ちょう助はひとり寂しい日々を過ごした。