✳︎
「早瀬、今日の電話随分長かったな」
「あ……仕事だったので」
そんな微妙に噛み合っていない返答を返しながら病院を後にし、日も落ちてすっかり暗くなった夜の空の下、駐車場までの道を歩く。
芝波社長は病院までの送迎を頼んでいた人がいたらしく、帰りも行きと同様私と羽水社長の二人となった。
…あのまま結局私はなんとなく病室に入れないままエントランスに引き返し、あぁどうしようと焦っている所に羽水社長が様子を見に現れた。
──今日はもう、帰ってもいいですか。
そんな気随な私の発言に、羽水社長は何を尋ねるわけでもなくわかったと頷いた。
羽水社長は何も聞かない。
私の様子がいつもと違う事もわかっていて、それでもそれを追求するような事はしない。
羽水社長はそういう人だ。

